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監査委員の「秘密」とは

2009年10月02日

先日のブログの中で、田川地区清掃施設組合の監査に関するブログの内容について、ブログの読者の方から「地方自治法第198条3の2に抵触するのでは」というご指摘をいただきました。

 

私自身監査委員は初めての仕事であり、勉強不足な点もあったので、知人に聞いたり、関係法令を読み込んで自分なりに勉強をさせていただきました。その結果を今日は書いていこうと思います。

 

そもそも「地方自治法第198条3の2」とは

 

監査委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする。

 

という条文になってます。

 

この条文に抵触する、ということは、先日のブログが「職務上知り得た秘密の暴露」に当たるということになります。もしそうなら、罰則規定はありませんが法律違反ですし、監査委員としての基本原則を犯す大きな問題と言えます。

 

ではこの条文と今回のブログの内容との関係を見ていきたいと思います。

 

まずは条文にある「秘密」とはなにか??について述べていきます。

 

まず学陽書房出版の「新版 逐条地方自治法 第5改訂版」の598ページに以下のように書いています。

 

「秘密」とは、一般的に了知されていない事実であつて、それを漏らすことにより、特定の法益を侵害するものをいうとされている。

 

とあります。「特定の法益の侵害」については「公的なものだけではなく、私的なものも含まれる」とあります。

 

では具体的に判例などは「秘密」についてどう扱っているのか、見ていこうと思います。

 

国家公務員法第100条1項にも「秘密」という言葉があります。これに関しては、最高裁判例(事件番号昭和48(あ)2716 昭和52年12月19日最高裁判決)が存在しています。その判決文には以下のような文章があります。

 

同条項にいう「秘密」であるためには、国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、右「秘密」とは、非公知の事項であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいうと解すべき

  

また、外務省外電漏洩事件第一審判決(東京地判昭和49.1.13判時732号12ページ)は、守秘義務制度の目的を「公務の民主的且つ能率的運営の保障」におき、その目的達成に必要なかぎり守秘されることが許されるものとして四項目を示しています。

 

すなわち、「一定の事項が漏示されるならば公務の民主的且つ能率的運営が国民に保障され得なくなる危険性がある場合」とは、

 

①公共的討論や国民的監視になじまない場合(例 プライバシーに関する事項)

②公開されてしまうと行政の目的が喪失してしまうに至る場合(例 逮捕状の発令、競争入札価格)

③公共的討論や国民的監視によるコントロールは事後的に行う機会を残しつつ公務遂行中にはその能率的・効果的な遂行を一時的に優先させる必要のある場合(例 行政内部での自由な発言を保障するための非公開委員会など。進行中の外交交渉事項〈総てが該当するとしているのではなく、秘密にすることが国際的慣行となっており漏れるとわが国や相手国の利益を害する危険性が考えられる事項で、事後的に国会での審議が予定されているなど民主的コソトロールに服することになっている事項として慎重な限定が付けられている〉)、

④その他これらに準ずるもの

 

外務省外電漏洩事件第一審判決は確定判例ではないものの、さきほどの逐条解説や判例などを見れば、司法判断上「秘密」となる事項は、限定的にとらえていることが分かります。

 

また、「秘密」に該当するかどうかは最終的に司法判断に服するものであり、行政が決めたら終わりというものではありません。もちろん、行政内部の不正や法令違反など、公益を侵害している事実については「秘密」として保護されるべき対象とならないことは、言うまでもありませんが。。。

 

とても難しくなってきましたが、たとえば監査委員として監査した際、競争入札の今後の予定について、指名業者や予定価格などを聞いて、その情報を関連業者に言ったり、ブログに掲載したりすれば違反となる、と言ったところです(起きた事実について監査をするので、あまりしっくりこない例ですが(^^;)

 

では!

 

上記の「秘密」というものに今回のブログが該当するのか見ていこうと思います。

 

まず前回のブログを改めて全文掲載してみようと思います。

 

今日は朝、田川地区清掃施設組合例月出納検査へ。現在田川地区清掃施設組合の監査委員を務めています。初めての例月出納検査でした。

その中で数多くのことを指摘させていただきました。同じ仕事をしているのに、下田川(福智町・糸田町)の施設と上田川(田川市・川崎町)の施設とでは3倍も経費が違うこと、入札に関しての様々な問題、不十分な資料などなど、朝10時から13時30分までしっかり監査をさせていただきました

おそらく今回私が指摘をした部分だけでも数千万円単位の税金に関わる問題です。監査委員として指摘したのですから、その返答もしっかり行ってもらいたいとお思います。

また、ある入札では事後公表のはずの最低落札価格にぴったりあった落札がありました。それも複数です。明らかに不可思議な現象だと言えます。かなり執行部に問いただしましたが十分な返答は頂けませんでした。

競争入札妨害で下田川の施設で逮捕者が出たばかりです。疑念を抱かせるような入札は一切行わないよう、強く執行部も伝えました。

また行政監査の実施も決定し、今年度着手することにしました。

 

ここで監査内容に触れているのは以下の部分です。

 

①下田川(福智町・糸田町)の施設と上田川(田川市・川崎町)の施設とでは3倍も経費が違うこと

②入札に関しての様々な問題

③不十分な資料

④朝10時から13時30分までしっかり監査

⑤ある入札では事後公表のはずの最低落札価格にぴったりあった落札が存在

 

まず①から⑤まで具体的に述べているのは、④の監査を実施した時間だけです。しかし時間は「法益を侵害する対象」ではありませんので、「秘密」に該当しないのはすぐに分かります。

 

そのほかの事項についても、そもそも個別的・具体的な明示もない状況ですので、法益を侵害する対象とはならない、と解されます。

 

よって今回私が田川地区清掃施設組合の監査を行ったことを掲載したブログについては、地方自治法第198条3の2に抵触はしないと考えております。

 

ではもっと踏み込んで、仮に今回の中身が具体的に明示されていたら、地方自治法第198条3の2に抵触してしまうのかも検証してみようと思います。

 

例えば①について、これを納入する部品が全く同じ数、同じ部品であるのにも関わらず、A施設では100万円、B施設では300万円かかっている、そして私がその納入方法について問題があるのではないか、と指摘した、とブログに書いた、とします。

 

これが秘密として保護に値するものか、と考えてみます。まずこれは物品納入に関して発生した事実です。そして結果について、決算等で今後了知されていく対象でもあります。

 

それらを考察していくと、当該内容を具体的に明示したとしても、なんら法益を侵害するものでもないのはありませんし、最高裁判例における「秘密」の概念である「非公知の事項であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるもの」には当たらないというのは、もはや言うまでもないと考えます。

 

よって、今回の事例を具体的に明示したとしても地方自治法第198条3の2には抵触しない、とも言うことができます。

 

もちろん私の考えであり、間違っている部分もあるかと思いますが、今回ご指摘いただいた事項については上記の通りではないかと思います。

 

しかし誤解をとくために申し上げますが、法律上抵触しないから闇雲に情報を掲載していくのを目的として今回のブログを書いたわけではありません。むしろ監査委員として「監査委員本来の守秘義務はきちんと守る」という姿勢はなおのこと大切なのだと、今回勉強して私は認識しました。

 

監査を実施するに当たっては、「秘密」も含めて資料提示が行われます。まず私自身が内容が「秘密」に該当するか否かをしっかり見極める目を持たないといけないと感じました。

 

また実際に監査を行って議員が目にする資料とは格段に違うものだとも認識しました。だからこそ、様々な資料の読み込みや執行部との論議が不可欠ですが、その際執行部の説明不足のために自分が勘違いしたり、私自身が勘違いをしてしまい、事実とは違う認識に基づいた結論を出してしまう危険性もあります。

 

そのことも踏まえ、独立機関として様々な権限が法律で与えられている監査委員が、一つの結論を出すのは慎重でなければならず、安易な結論を出すべきではないと思いました。

 

もちろんこれは、適当に資料を読みハンコを押すだけの監査委員であってもいけない、と言うことも指します。これからも慎重かつ冷静に、まさに地方自治法第198条3にある「常に公正不偏の態度を保持して、監査をしなければならない。」という姿勢を大切にして参ります。

 

とっても長くなりましたが、大切なことなので書かせていただきました。

 

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